老いたる者をして・・・



 老いたる者をして静謐の裡にあらしめよ
 そは彼等こころゆくまで悔いんためなり


 吾は悔いんことを欲す
 こころゆくまで悔ゆるは洵に魂を休むればなり


中原中也の、『在りし日の歌』から、「空しき秋」第十二、「老いたる者をして」の冒頭です。


写真のきのこはノウタケ[Calvitia craniiformis]。学名は「脳のかたちをした禿頭」を意味するそうです。





ただし、これは老いたるノウタケ。若いノウタケは、いわば電球をたてたようなかたちで、薄茶色っぽい外皮に覆われたスポンジ状。


それが老いると、頭が破れて中の胞子が飛び散ります。


飛び散ったあとの「柄」と「頭の名残り」だけ残ったのがこの写真の個体。


頭の名残りには、落ち葉が一葉。


破れた頭と柄がかたちづくる縁線の鋭さにはっとさせられます。


 あゝ 吾等怯懦のために長い間、いとも長き間
 徒なることにかゝらひて、涕くことを忘れゐたりしよ、げに忘れゐたりしよ・・・


〔空しき秋二十数篇は散佚して今はなし。その第十二のみ、諸井
 三郎の作曲によりて残りしものなり。〕