イッポンシメジ



日本のきのこには、「標準和名」というのがあります。


明治期の学校で、沖縄や東北で「標準語」を押しつけるために、地元の言葉で話したら懲罰の札を持たされて立たされた、というおぞましい話もあって、「標準」という言葉にいかがわしさを感じてきました。


といっても、それだけではなくて、生活から生まれた言葉には、それなりの「なるほど」感があり興味深いので、その地域その地域でのきのこの名前は、知りたいといつも思っています。


前にも書きましたが、秩父地方で「イッポンシメジ」といえば、「標準和名」では「ウラベニホテイシメジ」のこと。立派で優秀な食菌です。ちょっと短く「イッポン」ともいいます。


「キューリ、イッポンぼっち」といった雰囲気。


ところで、「標準和名」で「イッポンシメジ」は似た仲間のクサウラベニタケとともに毒で、中毒例も多いきのこです。今日、紹介するイッポンシメジ[Entoloma sinuatum]は、標準和名の「イッポンシメジ」で、毒のほう。


秩父では、これらを「ニタリ」と言います。写真は、こんな感じ↓





暗い中でフラッシュなしで撮影したものを明るくしたため、ちょっとトびぎみですが、ご容赦下さい。


斜め上から見ると↓





この個体は、しばらく雨がなかったため、傘がひび割れています。


クサウラベニタケとイッポンシメジ、どちらもウラベニホテイシメジに似ていますが、クサウラベニタケは貧弱な感じ。


イッポンシメジはそれに比べてがっしりしていて、質感はウラベニホテイシメジにより近いので注意が必要です。区別がすでにできる人は「なんとなく感じ悪い」のがイッポンシメジで「感じいい」のがウラベニホテイシメジ


でも、いずれも「イッポンシメジ科」ですから、やりにくいですね。


傘が灰褐色・灰色系で柄が白から灰色でシメジ型で「食べられるかな」という一連のきのこについて、一応のめやすは、以下の通りです。ただし、あくまで「めやす」なので、絶対確実になるためには、知っている人に教わり、少しでも怪しければあきらめるしかないようです。あとは、顕微鏡で調べる。

  • ホンシメジ[Lyophyllum shimeji]:キシメジ科。秋、アカマツまじりの雑木林が中心。なかなかありません。ヒダは成長しても白/クリーム色。繊維質が弾力的。傘にかすかなかすりっぽい感じがあることがある。
  • ハタケシメジ[Lyophyllum decastes]:キシメジ科。梅雨時と秋、林道脇や林を切り開いた公園など。ホンシメジと大体おなじ。
  • ウラベニホテイシメジ:イッポンシメジ科。梅雨時と秋、雑木林。ヒダは成長するとピンク系。柄は縦の繊維質をすこーしねじったような感じに見えます。がっしりして重量感がありますが、繊維質は少しもろい感じ。傘はすこーしオリーブ色系が入った感じの色のことが多く、傘表面にかすり模様が微妙にありがち。指で押したクレータみたいなものも。
  • イッポンシメジ:イッポンシメジ科。秋、雑木林。ヒダ・柄はウラベニホテイシメジと同じ感じ。重量感あり、繊維質はもろい感じ。傘はどちらかというとストレートな暗灰色・暗灰褐色で、かすりはあまりなく、クレータも基本的にない。
  • クサウラベニタケ:イッポンシメジ科。重量感なし、もろい感じ。傘はヌメっとした感じの灰色系が多い。かすりもクレータも基本的にはなし。



といっても、繰り返しますが、これらの特徴を絶対にそのままうのみにしてはいけません。固体によって大きな違いがありますから。