ムレオオフウセンタケ



白秋に、「謀叛」という詩があります。ずっと昔、好きでした。


 ひと日、わが精舎の庭に、
 晩秋の静かなる落日の中に、
 あはれ、また、薄黄なる噴水の吐息のなかに、
 いとほのにヴィオロンの、その糸の、
 その夢の、哀愁の、いとほのにうれひ泣く


読み方に注意。晩秋=おそあき、落日=いりひ、噴水=ふきあげ、哀愁=かなしみ、です。うーむ。強敵=とも、というのは昔っからの習慣だったのか、と思わせる逸品。なほ、糸は、ほんとうはもっとむづかしい字です。


ヴェルレーヌの有名なChanson d'automn(秋の歌、綴りはインチキかも知れません)の上田敏訳は、


 秋の日の
 ヴィオロン
 ため息の
 身にしみて
 ひたぶるに
 うらかなし


なのですが、堀口大學は、


 秋風の
 ヴィオロン
 節ながき啜り泣き
 もの憂きかなしみに
 わがこころ
 傷つくる


だったように記憶しています。それで、大學さんは、「ここのヴィオロンというのは秋の風の音である」って、解説してるの。


さて、そんな秋風が節ながく啜り泣く10月末、秋たけなわの名菌ムレオオフウセンタケ[Cortinarius praestans]。去年も紹介しましたが、今年は割と当たり年のようです。あるいは、たまたまほかの人が採っていなかっただけかも知れません。





このほかに、大きく育ったやつを含めて合計で10本ほど採りました。


右側の小さいやつを拡大すると・・・・・・





あへて云ふと、ヴェルレエヌよりはボオドレエル風、でしょうか。