「笑顔で親切」なサービス



まったくの偶然で、「本屋の店員とサービス」というWebエッセイを読みました。このエッセイ、最後のほうに、岩波の「世界」を知らない本屋の店員さんに声をあらげてしまったとあり、「世界」を有名誌と言うところの含意は賛同しないのですが(どちらかというとシーラカンスだと思う:むろんシーラカンスだって有名だけど)、サービスについてうなずける見解があったので、引用します。



「民間やったらもっと親切や」と言われることがよくある。本当にそうだろうか。雪印事件、狂牛病、賞味期限切れの卵の販売、こんな例は山ほどある。確かに、日本では客への対応は親切であるかのように見える。深々と頭を下げ、「いらっしゃいませ」と言葉遣いも上品である。私が通勤に利用している京阪電車では、駅員が「おはようございます」と大きな声を上げている。しかし、乗せられる電車は満員で、障害者が利用するには一苦労も二苦労もしなければならない。銀行は国からただ同然で金を借りながら、私たちが預けたお金を引き出すたびに手数料を徴収する。これが一体サービスなのだろうか。


私は、行政サービスの根本は、国民の基本的な権利を守ることであると考えている。ぞんざいで横柄な口を利く客に、ただただじっと耐え、頭を下げるのがサービスだとは思わない。


もちろん、同じ水準だったら、「笑顔で親切」のほうがいいのですが。。。でも、「笑顔で親切」をサービスと勘違いしているのではないか、しかも押しつけがましく、と思うことが多々あるので、最近の経験から、ちょっと書いてみます。


一つは、JALで中継地点まで行って、そこから別の航空便で、あらかじめの入国ビザが必要な国に行こうとしたときのこと。日本の空港のJALカウンターの人が、その入国ビザは見慣れないので、ちゃんと通用するかどうかチェックさせて下さい、とにこやかな笑顔で私に言いました。


入国ビザの必要なその国には、JALではなく別の航空会社のフライトを使っています。だから、JALには無関係だろうと思って「どうしてそれをJALさんがチェックする必要があるのですか?」と私。


JAL:「お客様に入国の際、万が一のことがあったときを考えて、お客様のために」。


私:「入国はJAL便ではありませんし、JAL便はそもそもその国には飛んでいませんが、万が一のときには助けてくれるのですか?」


JAL:「いえ、万が一のときのために」


私:「私はこれまで万が一のときに、JALさんに助けてもらったことは一度もありません。エールフランスは評判の悪いエアラインですが、私のこれまでの経験では、トラブルがあったときにきちんと理由を説明して強く求めると、それなりの臨機応変な対応をしてくれます。一方、JALさんには、そうした対応をしてもらったことはありません。万が一のときには助けてくれるのですか? でも、その国にはJALの支店もないし、フライト便も入っていないのにどうやって? コレクトコールで助けを求める国際電話の受付窓口があるのですか? あるいは、提携便会社が助けてくれるのですか?」


JAL:「いえ、お客様は旅慣れしてらっしゃいますので大丈夫だとは思いますが、万が一のために」(大きなお世話やん・・・この辺で、後ろからもう一人ちょっとだけ上司っぽい人がくる)。


私:「単純に、入国できなかったとき、帰国便の手配などは行きの便の航空会社が責任をとらなくてはならないからではないですか? だとすると、チェックしたいのは、私のためではなく、JALさんの万が一のためではないですか?」


JAL:「・・・・・・」


私:「もしそうであって、なおかつこの国の入国ビザが正当なものかどうか判断できないほど経験がないのならば、そして私が入国できなくて困るのは私ではなくて(というのも私は困らないと、まさにこの私が言っているのですから困らないのです)あなたたちJALの方であるならば、きちんとそう言って下さい。もしそのようにお願いされれば、私としても、入国ビザを少し時間をかけてチェックしても構いません」


JAL:「いえ、それでは結構です・・・・・・」


とゆーよーな感じでした。最悪なのは、自分たちのためにやりたいことを、あたかも客のためであるかのように見せかけること。これは、心の底から不愉快で不愉快で、極まりもない。


私の回りでも多くの人が日本の航空会社のサービスを褒めるのですが、私自身は、全くいいと思ったことがないです。


ただひたすら、ウザい。


もう一つは、先日、パンの型を買おうと東武百貨店に行ったとき、案内カウンターで、50前後の胸に「笑顔で親切」とバッジをつけた男性の職員と。


私:「パンの型は何階ですか?」


案内係:「そちらのエスカレータをおりまして、右にいくと左手にお菓子の素材等を売っているところがございます。そちらです」


私:「大きな、しっかりしたパンの型ですけど、ほんとに地下ですか?」(実はその地下ではよくライ麦粉や小麦粉を買っていて、どう考えてもありそうにないという印象を持っていたのです)


案内係:「はい。うちでその関係はそこにしかありません」


というわけで、一応行ってみたのですが(まあ小麦粉も買いたかったからいいのですが)、やっぱり、あるのは惨めに小さなお菓子の型だけ。そこの係の人にきいたら、パン型は、「6Fの台所用品売場です」、と。


ほーらみろ、やっぱり・・・・・・


ということで、わざわざ案内カウンターに戻って、その職員に、


私:「パン型は6Fの台所用品売場でした。笑顔で親切はどーでもよいので、明晰で正確な情報を下さい。笑顔で親切に誤った情報を教えられるよりは、ぶっきらぼうで正確な情報を教えてもらう方がはるかにましですし、サービスの基本はそこだと思います」



さてさて、それでは、「笑顔で親切で誤った情報を教えたり何もできない」サービス(日本のチェーン系レストランの典型ですね)と「ぶっきらぼうで誤った情報を教えたり何もしない」サービスとどっちがいいか? という問題に思い至りました。


私は、圧倒的に、どうせ何もしないしできないし間違ってるならば、ぶっきらぼうで愛想が悪い方が好きです。


笑顔で親切で何もできなくて、さらに、自分たちのために何かしたいことを「お客様のためですーう」なんて言われると、本当に何もかもぶちこわしたくなるほど腹がたつけど、ぶっきらぼうだと、このクソッタレ、で終わるので。


真綿でクビをしめるような偽サービス、嫌い。